レイ・チャールズ
   レイ・チャールズ  ソウル・ジャズ歌手/ピアノ奏者
   生まれ:1930年9月23日 逝去された日:2004年6月10日 享年73歳

 レイ・チャールズという人の歌には人を動かす力があった。声といい、唄法といい、容姿といい、あの独特の雰囲気が彼しか歌えない歌を作っていた。「Georgia(我が心のジョージア)(1960年)」「I Can't Stop Loving You(愛さずにはいられない)(1961年)」などのバラードは世界中で大ヒットし、すでに永遠のスタンダードとなって久しい。こういった柔らかい感じの曲もよかったが、個人的には、もっとブルースやソウルのフィーリングを効かせてハードに歌っていた曲を愛聴していた。そういった曲の方が、より彼の魅力が引き出されていた気がするし、彼らしかったからだ。その中でも、最高のフェイバリットだったのが、映画『夜の大捜査線(In the Heat of the Night)』のテーマ曲となった「In the Heat of the Night」である。
 1967年封切られた『夜の大捜査線』は、シドニー・ポワチエ扮する敏腕黒人刑事と、差別主義者である白人警察署長のロッド・スタイガーが、黒人差別が横行する南部の田舎町で、反目しあいながら、次第に友情で結ばれる刑事物の傑作で、同年の話題と数々の映画賞をさらった映画だった。この音楽を担当したのが、クインシー・ジョーンズであり、そのテーマ曲が「In the Heat of the Night」である。盟友クインシーの渋い曲をチャールズがブルース・フィーリングを最大限に効かせて歌っている。かといって、過剰なまでの泥臭さはなく、洗練された歌い口が何ともいえないいい味を出していた。このディープなソウル・バラードの魅力を完璧なまでに引き出すことは彼しかできなかったに違いない。名演中の名演である。劇中に何度もこの曲が登場するが、黒人差別がベースにあるこの作品の中で、彼の真似できないソウルフルな歌声が画面の中の綿作地帯や荒涼とした南部の風景にピッタリとはまっていたのが印象的だった。
 レイ・チャールズの唄法はゴスペルとブルースに多大な影響を受けているが、この曲は彼のテクニックが最大限に生かされたものだった。中学時代(もちろん同時代ではなく、後追いです)、この曲に出会って、あまりのかっこよさに、真似して歌ってみたものだが、とても彼のように歌えはしなかった。その時からレイ・チャールズの偉大さ実感してはいたが、亡くなってみると改めて彼はとてつもないミュージシャンだったことを再認識させられる。この人はゴスペルやら、ブルースやら、ジャズやら、あらゆるジャンルの音楽をミックスさせて、一つのスタイルを確立した人だった。どんな曲でも彼が歌えば、彼の歌、つまりソウルとなってしまう。「いとしのエリー」でさえもサザンの歌以上の情感がプラスされ、彼の持ち歌となってしまうのだ。「In the Heat of the Night」はそんな彼の「らしさ」がよく出た名演なのだ。
 6歳で視力を失って、15歳で身内も亡くなり、天涯孤独の身となった。盲学校で点字を使って音楽理論とピアノを学んでいった彼だが、生きるために音楽しかないと誓って、音楽一筋の道に入る。盲目というハンディを背負っていたが故、そうならざるを得ない状況だったことも確かだが、そのハンディをものともせず、というよりもそれを逆に有利なものとして持っていき、自分の音楽を確立した。そういった彼の音楽に対する姿勢が、歌に力強さと説得力を与えていたのかもしれない。麻薬に溺れてしまう弱さも持ち合わせてはいたが、歌へのプロフェッショナルな取り組みは、天才という言葉だけで片づけられてしまうほど、軽いものではなかったと思えてくる。
 ついこの前、彼の人生を映画化した『Unchain My Heart: The Ray Charles Story』(死後2004年公開されて、タイトルが『Ray』に変わった)がクランクアップした。今は公開を待つばかりの状況である。また、『Ray Charles Duets』というタイトルで録音されていた最新作(邦題『ジーニアス・ラブ〜永遠の愛』)も、8月に発売予定だった。これなどは遺作ということになってしまったわけだが、デュエット相手にノラ・ジョーンズ、BBキング、ウィリー・ネルソン、マイケル・マクドナルド、ビリー・ジョエル、ナタリー・コールなどの彼を敬愛する超有名ミュージシャンが選ばれており、待ち遠しい新作であった。彼の死後にこういうビックプロジェクトが発表されることになってしまい、これらの曲をコンサートで歌う姿が見られなくなってしまったことは寂しい限りである。よぼよぼの半痴呆性老人だったシナトラはやっぱりデュエット企画が事実上最後の作品となったが、まだまだ若かったレイ・チャールズにはもう一花咲かせられる余裕があったはずだった。去年、53年間続いたツアーを初めてキャンセルして体調の不良も伝えられていた。しかし、ほんの2ヶ月前、40年前に建てられたレイ・チャールズの専用レコーディング・スタジオがロサンゼルスの重要建築物に指定された祝いの席に、車いすに乗っていたとはいうものの出席し、イーストウッドやナタリー・コールなどと愛嬌を振りまいていただけに残念である。
 ちなみに「In the Heat of the Night」は映画で使われたバージョンと、シングルEP版用の2種がある。映画バージョンはベストアルバムにも収録されていたが、シングルEP版用はおそらくいまだCD化されていない。シングルEP版用の方が、よりハードにテンポアップして歌われている。これが実にカッコいいのだ。これを機会にといってはレイ・チャールズに申し訳ないが、シングルEP版バージョンも何とかCD化してほしい、と痛切に願う次第である。


     

 

(更新:2004年6月15日)

 

In the Heat of the Night
夜の大捜査線
Q・ジョーンズ
1967年

 

 

Genuis Loves Company
ジーニアス・ラブ
〜永遠の愛
2004年

 

 

 

 

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